痴漢は何罪?
一般に痴漢という言葉が定着しており、法律の世界でも普通に使われたりするのですが(大阪府警の犯罪統計情報などでも、「痴漢 検挙件数」とか書いてあったりします。)、刑法に「痴漢罪」という犯罪があるわけではありません。
痴漢は、犯罪としては、各都道府県の「迷惑防止条例違反」か、刑法の「強制わいせつ罪」のいずれかになります。
こちらの記事も参照 痴漢事件の弁護士への依頼
迷惑防止条例違反
各都道府県の迷惑防止条例というのは、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって府民及び滞在者の平穏な生活を保持することを目的とする」(大阪府迷惑防止条例第1条)といった目的で、各都道府県がそれぞれ定めているもので、どの都道府県もおおむね似通った内容を定めています(都道府県ごとの差異もいくらかはあります。)。大阪府の場合の正式名称は、「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」となっており、痴漢のほかに、ダフ屋、ショバ屋、多人数での言いがかり行為、不当な客引き、反復した付きまとい、盗撮、迷惑ビラ配布、モーターボートでの危険行為といった、多様な迷惑行為を禁じています。
大阪府迷惑防止条例の中で、痴漢は「何人も、次に掲げる行為をしてはならない。 一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。」(第6条)とされています。ちなみに、大阪府迷惑防止条例では痴漢は「卑猥な行為の禁止」という題名の条文で禁止されているのに対し、東京都の迷惑防止条例では痴漢は「粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止」という題名の条文の中で禁止されており、都道府県単位での違いを感じることができます。
迷惑防止条例で想定されている痴漢の行為としては、衣服の上から臀部や胸を触る、足・腕・背中など露出している素肌を触る、といったものです。
痴漢に対して大阪府迷惑防止条例違反で課される刑罰としては、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」です。
実際に痴漢に科される刑事処分としても、略式命令で30万円から50万円程度の罰金刑となることが多いです。
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、刑法176条に定められており、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をすること、または13歳未満の者に対して(暴行や脅迫を用いなかった場合も含めて)わいせつな行為をすること、を処罰の対象にしています。
迷惑防止条例違反と比べて、(13歳以上の場合ですが)暴行や脅迫といった強制力を用いている要素が加わっており、より悪質であると言えます。このような暴行・脅迫には、痴漢の場合、触る行為と別に先立って行われる場合のほか、触る行為自体が暴行に当たると評価されるような場合も含まれています。
つまり、痴漢が強制わいせつ罪に当たる場合というのは、触る行為の前に抵抗させないよう暴力が振るわれたり、脅迫して助けを呼べないようにしたりといった典型的な暴行・脅迫がある場合に加え、無理やり下着の中に手を入れて身体を触る、逃れようとしているのに執拗に下着を脱がせようとする、逃れられないような位置に追い込んで長時間触り続ける、というような行為をした場合が含まれます。
かつては、判例上、客観的な行為のほかに、加害者の主観としてわいせつ目的が必要とされていましたが、現在では、わいせつ目的は不要と変更されていますので、上記のような行為があったら強制わいせつ罪に問われることとなります。
定められている刑罰は、6月以上10年以下の懲役であり、重い処罰がなされています。
実際に科される刑事処分としても、正式裁判が開かれて、行為態様、前科・前歴、示談がされたか否かが考慮されたうえで、懲役刑の執行猶予判決または実刑判決が下されることが多いです。
どちらの場合も示談が重要
電車の中で服の上から触るような、いわば「普通の」痴漢は迷惑防止条例違反となりますが、下着の中に手を入れるなどのかなり悪質な痴漢は強制わいせつ罪で重く処罰されることになります。
どちらの場合であっても、痴漢にあわれた被害者の方の被害回復のために示談を行うことは必要なことです。示談により少しでも被害の埋め合わせをすることは、痴漢の加害者にとっても処分を軽くするうえで重要なことです。痴漢が強制わいせつに問われた事件でも、被害者の方と示談が成立したことで、何とか実刑判決を回避できた事例もあります。
痴漢をして、どちらの罪状に問われた場合であっても、弁護士に依頼して、被害者の方と示談の話をされることをお勧めします。